創業70周年を期に新装した、老舗Tシャツメーカーのプレスルーム兼ショップ。
店舗設計&空間デザイン事例。
日本で初めてTシャツを制作した会社であり、日本人が創るTシャツという事にこだわりもって創り続けている。今回のプレスルーム兼ショップでは、従来のショップ機能(魅せて売る)という要素だけではなく、Tシャツ=「最もシンプルな服」の文化を育む場としての具現化を要求された。そこで、「日本発のTシャツのありかた」とは何かを突き詰め、日本人が古来から持つこだわりの精神・・服としてのディティールへのこだわり+繊細でテクノロジーを駆使した繊維による着やすさへのこだわりの回答として「人体を考え抜いたヒューマンスケール」に行き着いた。
日本人の空間におけるヒューマンスケールとは「間」である。ル・コルビジェが提唱したモジュロール同様、日本には、尺や寸、間や帖など、日本人の体のサイズから導かれた独自のモジュールがあり、このモジュールを無理無く使う事で、日本的で豊かなヒューマンスケールが生み出せるのではないかと考えた。
10枚のTシャツがディスプレイされている吊り什器は、35尺=10500mmの長さで設えている。これは、この会社が1935年創業しており、その末尾の35に準えている。また、ドアの高さや開口部の高さは日本のスケールで全て70寸70分=2333mmで設えており、これも創業70年を記念し、このショップを開設新装した事を意味付けている。通路の幅やテーブルの距離感も一間、半間といった日本人が好む間合いに設定しおり、徹底して尺や寸、間や帖を活用している。
このような日本のモジュールを活用する事で、その設えられた空間は自ずと「日本」を感じるはずであり実際に海外から訪れたゲストからは「非常に日本的な空間だ」と評価されている。同時に、この空間は非常にフレキシブルに使用できるよう、メインとなる吊り什器以外は、イベントや祭事に合わせて可変するように創られている。このフレキシビリティも、日本のヒューマンスケールの最たるものではないのだろうか。この空間は、尺や寸、間や帖といった日本独自のモジュールを徹底して使用する事で余計な装飾物を廃し、簡素化(empty)させ、日本のヒューマンスケールを生み出すことができた好例である。
※JCDデザインアワード2006 入選
※Design for Asia Award 2006 : The Final Selection
※2006 AICA SHOP DESIGN CONTEST : 特別賞
年鑑日本の空間デザイン2007(六耀社):掲載
カテゴリー:ショールームデザイン・店舗設計デザイン
ロケーション:東京・錦糸町
企画・プロデュース: 久米繊維工業株式会社・久米博康
空間設計:平澤太デザイン計画機構・平澤 太
設計協力(照明プランニング):大森智広(Maxray)
施工:株式会社創匠・栗原雅彦
撮影:茂木フォトスタジオ・茂木喜芳