Designcafe™️が提唱するDesigning Dxとは
Designcafe™️では、デザイナーがより高い創造性を発揮し、労働生産性を向上させるための環境として、次世代デザインワークフロー”Designing Dx”(デザインワークのデジタルトランスフォーメーション)を提唱・実践しています。これは、デジタイゼーションとフィジカルの接点を見直し、断片的なプロセスをより横断的に、そして効率的なデザインワークを推進するために構築しました。既に汎用化されているテクノロジーから取捨選択し、カスタマイズすることで環境デザイン全体における一連のプロセスをマネージメントし、デザインワークを劇的に改善します。
環境デザインのプロセスは大きく分けると「着想」「思考」「創造」「伝達」の4つステップがあります。それまでデザイナーが全て担っていたクリエイションを新しいテクノロジーの力を借りることで、デザイナー(=ヒト)が持つフィジカルのチカラを最大限に引き出すことに主眼を置いています。
2020年から実践を開始した5つのデザイン・テクノロジー(DM =ダイレクトモデリング、RR = リアルタイムレンダリング、BIM= ビルディングインフォメーションモデリング、3DS= 3Dスキャニング、3DP= 3Dプリンティング)を駆使したデザインワークフローをDesigning Dxとして定義しスタートしました。 さらに、実装3年目に当たる2024年には定義を再編し、2つのアプローチ(フィジカルデザイン、デジタイゼーション)と8つのテクノロジーに整理し(Designing Dx 3.0)、生成AIの活用、ジェネレーティブデザインといった最先端のテクノロジーを実装。省力化だけでなく人とコンピューターとの融合、デザイン検討の自働化といった新しい創造性を生み出す仕組みに対しても、時代とともに進化するテクノロジーを活用しながら進んでいます。
It combines the high creativity of designers with digitisation and connects to the future.
Designcafe™️ is the advocate and practitioner of the next-generation design workflow ‘Designing Dx’ (digital transformation of design work). This environment allows designers to achieve higher creativity and increase labour productivity. It promotes and implements digitisation and fitness for purpose. It is built on a review of the interface between digitisation and physicality to make fragmented workflows more cross-functional and to promote efficient design work.
It has dramatically improved a series of design workflows across environmental design by discarding and customising from already generalised technologies: five design technologies that have been in practice since 2020 (DM = direct modelling, RR = real-time rendering, BIM = Building Information Modelling, 3DS = 3D Scanning, 3DP = 3D Printing), defined and launched as Designing Dx. In 2024, the third year of implementation, the definition was reorganised into two categories (physical design and digitisation) and eight technologies, and the implementation of cutting-edge technologies such as generative AI, generative design and topology optimisation started. The company is also making use of technologies that are evolving with the times. These technologies not only save labour, but also create a new mechanism for creativity, such as the fusion of humans and computers, and the self-directed nature of design reviews.
クライアントに対してのメリット。
プロジェクトにおけるデザインの意思決定の迅速化。
Designing Dxの恩恵は、クライアントに対しても大きく寄与します。一つのデザインデータをもとにリアルタイムレンダリングが行え、3DプリンターやCNCで制作したモックアップでのデザイン検討といったラピッドプロトタイピング、またXR(=クロス・リアリティ※1)でのリッチな可視体験を全てのクライアントに提供することでプロジェクトにおけるデザインの意思決定の迅速化(デザインプロジェクトにおけるアジャイル開発※2 )とコミュニケーションに貢献します。
計画時のフェーズでは、生成AIを活用したプロジェクトイメージを生成するジェネレーティブスタディ、現場の実測を容易にし、建築や空間の3Dボリュームをスキャニングで実現する3Dスキャニング、フィジカルにダイレクトに3Dデザインを行うダイレクトモデリングで迅速に空間デザインのアウトラインをビジュアライズでき、ARやVR※1での仮想空間での検証も可能です。
実施設計のフェーズでは、前出のダイレクトモデリング、AR、VRに加え、BIM(ビルディングインフォメーションモデリング)を併用させ、3Dモデルと設計図面データを高度な整合を自動化させながら、迅速なヴィジュアライゼーションを実現します。また、必要に応じてトポロジー解析による最適化の検討も行えます。
制作現場施工のフェーズでは、これらのワークフローデータをそのまま活用し、 i-Constructinへの応用など制作現場や施工現場のDxにも寄与します。BIMデータを活用した3Dプリンターによるモックアップの検証から部材の制作、CAMを通じてデジタルファブリケーションへの連携、CNCなどのプレカットデータの共有による制作の自動化を実現することができ、工場制作での精度の向上や省力化、工程の簡素化が期待できます。
※1 現実世界と仮想世界を融合することで、現実にはないものを知覚できる技術の総称。そのため、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)といった技術は、いずれもXRに含まれる。
※2 アジャイル開発は、人間・迅速さ・顧客・適応性に価値を置く開発手法で、ソフトウェア開発から生まれた手法。典型的なアジャイルソフトウェア開発では、チーム主導で設計・実装・デプロイを短期間に繰り返してユーザーが得た価値を学習し適応する、すなわちトライアルアンドエラーで開発が行われる。
BIMとジェネレーティブデザインの導入
Designcafe™️ では、2019 年から空間デザインにおける BIM※3 の導入検討を開始し、2020 年からはプロトタイピングにダイレクトモデリングを導入、直感的で創造的なデザインワークフローの実現に向けてスタートを切りました。BIMモデルとして、ダイレクトモデリング→3Dビジュアライゼーション→2D設計図書の自動生成まで同一のデザインデータ(設計データ)で行っており、竣工図書の属性情報のプロトタイプ化も並行して進めています。 日本における空間デザイン業界の BIMへの取り組みは大変遅れており、空間デザイン業界全体の Dx(デジタルトランスフォーメーション)を阻害している原因にもなっています。
※3 BIM:Building Information Modeling は、コンピューター上に作成した3次元の形状情報に加え、室等の名称・面積、材料・部材の仕様・性能、仕上げ等、建築内外の属性情報を併せ持つ情報モデルを設計データ内部に構築すること
BIMがもたらすメリット。自動化と高度な整合性。
Designcafe™️ での設計の手順は、3Dモデルを一旦作成(ダイレクトモデリング)するところからスタートします。3D-CADと3Dモデラーソフトを併用してプロジェクトの初期段階から3Dでの空間形状を制作(プロトタイピング)し、そのまま設計に移行していきます。ここまでは、比較的よくある流れになりますが、通常の2Dでの設計手順とは異なり(3Dデータをそのまま活用することで)平面図や展開図といった2Dの図面は同一の3Dモデルから切り出され自動的に生成されます。この3D設計データとなった3D設計モデルに様々な情報を追加していくことで、区画図、仕上表、照明配灯図などを自動的に作成することができます。これらの成果物は相互にリンクしているため、展開図を直せば、直ちに3Dモデルにも修正され、全ての図面(成果物)が自動的に更新されます。そもそも従来デザイナーが作図していた2D図面を作図からは解放される上、高度な整合性が担保されるため、チェックしていた整合作業からも解放されることになります。
また、このBIMモデルを利用し、よりリッチな表現が可能となるリアルタイムレンダリングを行うことも可能で、成果物としてのデザインの表現の幅が選択できます。リアルタイムレンダリングは、デザイナーが目で見たまま表現の設定をダイレクトに反映でき、静止状態でもウォークスルーでも作成できます。BIMモデルを活用する最大のメリットは、設計データーとして3Dモデルを内包していることで、変更や調整が発生してもそのままCGパースに反映させたり、各図面に自動的に反映されるため、設計時の工数が大幅に減り、クライアントとのコミュニケーションが容易になることです。
空間デザインにおけるジェネレーティブデザイン
また、海外では導入が進んでいるジェネレーティブデザイン※4 も 2024 年より本格的に運用をスタートしています。BIMが空間デザインのワークフローを大きく変革することに対して、ジェネレーティブデザイン(建築業界ではコンピューテーショナルデザインとも)は、AIを活用しデザイナーや設計者が設定したアルゴリズムに即したデザインのシュミレーションを行い、最適な形状、最適なプランを導き出すというデザインのインテリジェンスに踏み込んだデザインスキームです。
Designcafe™️ ではジェネレーティブデザインを試験的にオフィスのプランニングや展示会ブースデザインの展示台の形状やブースの外観などのシュミレーションに活用し、新たな価値を提供できるようにトライアルしています。
例えばオフィスの場合、常在する人員数とテレワークしている人員の割合を変えるだけでデスク数等の物性が変わってきます。ここにフィジカルディスタンスなどの属性を加えると更に複雑になります。このような検証は、人力で行うよりもコンピューティングで解決した方が効率的です。また、ブースの形状も面積+高さ規定に加え「最大限接客できる面積のカウンターを保持する」「接する面は二面のみ」などの要素を入れるだけで物性が複雑になり、何通りもパターンが導き出せます。
このジェネレーティブデザインで導いたシュミレーションからいかに新しい価値を生み出せるかがポイントであり、そこには暗黙知や経験に裏打ちされた部分が生きてきます。デザイナーによってフィジカルにコントロールされた従来のデザインから、ジェネレーティブデザインによって偶発性、機能、コスト、耐甚性など複合的な要素も加えた、新たな美しさを創造できるかもしれません。
※4 ジェネレーティブデザイン:AI(人工知能)の一種で、より良い建物やシステムを生み出すために活用されており、アルゴリズム、機械学習、計算幾何学を駆使し、設計の課題に対して複数のソリューションを迅速に探索、最適解を導き出す手法
Designing Dxの提唱・実装を経て3年、次のフェーズ「生成AI」の活用へ
スタートは、フィジカルデザインをデジタイゼーションで省力化させる事で、よりクリエイティブワークに集中できる仕組みづくり(=デザインワークにおける労働生産性の向上)という観点で取り組んできましたが、3年目の2024年からは生成AIの活用を加え、より多角的な視点でのデザインの取り組みを行っています。一つ目は、検討段階からパラメトリックなスタディ(Generative Study=ジェネレーティブ・スタディ※5)を行い、その検討内容からフィジカルデザインに取り掛かる手法です。
※5 Generative Study(ジェネレーティブ・スタディ):汎用的なビジュアライジングAIを活用したリサーチ方法。プロジェクトのアウトラインを伏せながら、特定のスクリプトをプロンプトし、目的とするデザイン表現の一般性や可能性をリサーチすること。
空間デザインでは、クライアントとの初期検討の段階で、目的の空間に近い写真をピックアップし、共有するケース(コラージュもしくはムードボードなど)がありますが、これを生成AIで行いつつ、その可能性や表現性を事前にいくつも検討することで、よりユニークなデザインをフィジカルに取り組むことができます。汎用AIで生成されたデザインを「既に学習されているデザイン = 汎用性のあるデザイン」と捉えることもでき、同じ表現やディティールを回避することで、独創性(ユニーク)のあるデザインを生み出し易くします。
二つ目の取り組みとして、特定の定義(プロンプト)をChatGPT4.oを使ってPythonスクリプトとして生成し、3Dモデラーにコマンドラインを実行するような使い方(Generative Enginiering Design = ジェネレーティブデザインの手法の一つ※4 )も試験的に行っています。これは、デザインの領域拡張とも言うべき手法で、形状だけに限って言えば3Dモデラーや3D CADに実装されているトポロジー最適化※6 よりも取り組み易く、プログラム言語がわからなくても定義づけさえできればChatGPTがスクリプト生成してくれる為、スクリプトをコマンドラインにコピー&ペーストするだけでデザインのパターンを導き出すことができます。
ジェネレーティブデザインは、人工知能(AI)とクラウドコンピューティングを利用して、設計条件を指定することで複数の設計案を生成するプログラムです。デザイナーやエンジニアは、AIが生成した設計案を評価し、最適なデザインを導き出すことができます。生成AIを活用したデザイン検討は弊社に限らず、今後加速していくと思います。
※6 トポロジー最適化とは、設計で使える空間にどのように材料を配置すれば最適な構造となるのかを明らかにする解析。今あるモデルを最適化することに向いている。設計空間・荷重条件・拘束条件・制約条件を与え、所望の性能指標を最大化する材料の配置を計算を行う。設計空間モデルで想定される製品の使用環境やスペックに対して最適形状を見つけることができる。
3Dスキャニングによる空間測量&現場調査の省力化
Designing Dxの省力化の側面では、環境(空間)デザインにおける既存建築の3Dスキャニングの実装が進みました。これはiPhone/iPad Proに搭載されているLiDERやBLKカメラを使って空間を3D点群データで撮像し、3D&BIMデータに変換&流用することで、人力での測量から建築図面を起こす手間を省くことができます。この技術が役立つ場面は、大きく3つあります。
- 建築図面を紛失している物件
- 検査済証(=建築確認申請図)の無い物件(1998年の建築基準法改正以前の物件)
- 人力での実測が難しい複雑な小屋組を持つ古民家のような建物
特に2については建築概要書と平面図以外は皆無のようなケースの場合、用途変更を伴う施設計画(住宅用途→宿泊施設、倉庫用途→物販店舗のような特殊建築用途)では、まず現況図面を準備しないと用途変更そのものが申請できない事態になります。既存の建築ストックを建築当初の用途から他用途に転用し、有効活用する流れは加速しており、一定の条件を満たした用途変更の規制緩和も進んでいることから、築30年以上の建築物の有効活用の流れは加速する※7 と思われます。用途変更を伴うケースでは事前検討が必要であり、建築図を紛失しているケースや検査済証を取得していない物件でも、比較的短時間で3Dボリュームで実測でき、従来の人手による測量+建築図面化よりも低コストで図面化できる空間3Dスキャニングは、省力化の側面と相まって重要なテクノロジーになっていきます。そして、クライアント側のメリットは、プロトタイピングの迅速化による(築古の建築ストックを事業活用する際などの)計画の検討が容易になることです。
同時に3Dスキャニングによる建築&空間ボリュームの測量は、BIMや3Dでの計画ができないと宝の持ち腐れになります。既出の通り、建築や空間デザインの現場ではBIMの導入が遅れており※8、この技術そのものを受け入れられる仕組みがないと計画もできない為、Designcafeでは競争優位性の観点でも実装の中でノウハウの蓄積に努めています。
※7 建築基準法の改正により、2019年6月25日以降、200m2以下の特殊建築物の用途変更には建築確認の手続きが不要に。これは、空き家の活用や高齢化社会への対応を目的としています。
※8 日本の建築業界のBIM導入率は30%程度。2020年統計。
Designing Dxは制作・施工現場でのDxにも寄与します。
”Designing Dx”は、デザインワークの省力化にとどまらず、3Dプリンターによる部材の制作、CAMを通じてCNC(自動切削)や5軸複合ルーターなどの制作現場(木工や金属加工)でのファクトリーオートメーション(FA)やデジタルファブリケーションといった自動化、施工現場でのロボティックス(3DP)を見据えており、デザインから制作施工への横断的なフレームワークを実現します。また、政府が主導し、建築現場でも進行しているi-ConstractionやCIM(コンストラクションインフォメーションモデリング)との連携も取りやすく、高度なデータの整合性は生産性だけでなく、竣工後の物件の情報資産としての積み上がってきます。これらのワークフローデータをそのまま活用し、制作現場のDxに寄与することができます。
Designing Dxで私たちが考えていること
ダイレクトモデリング、BIM、ジェネレーティブデザイン、AIが齎すメリットは、デザインにおける理想的なDxそのものと言えます。次のDesigning Dxという意味で”Designing Dx3.0”とも言える文脈を語る上で重要なことは、新しいデジタルテクノロジーを導入・利用することで、新しい価値を生み出し、ビジネスを変革し、その優位性によって事業成長させることです。プロジェクトの与件に応じ、適切なテクノロジーを取捨選択することで適切な選択肢と解決策を導き、価値創造と問題解決に寄与することができると考えています。
- デザインワークフローにおけるアジャイル化
- フィジカルとデジタイゼーションを融合させ、新しいを価値創出
- 省力化や多様な表現による競争上の優位性
- テクノロジーを活用した問題解決
デザインとDxを個人的にはとてもシンプルに考えており「新しいテクノロジーの力で今までやっていた事をやらなくする事」と「新しいテクノロジーの力で今まで出来なかった事を行うこと」の二つのテーマで捉えてきました。これまでの空間デザインのワークフローは労働集約的で生産性の低さが指摘されており、その解決の一つとしてBIMやリアルタイムレンダリングが脚光を集めましたが、デザインの現場のみならず、制作や現場施工といったアウトプットまで踏み込まないと本来のDxは達成できません。そこには当然、自分たちだけでなく関わる全ての方達にもメリットが享受されるべきと考えています。Designcafe™️ では、新しいテクノロジーを追求するだけではなく、これらのDesigning Dxの実現で生まれた「時間」「新たな創造性」を付加価値のある提案につなげ、制作現場を手助けし、得意先に対して届けることを目標に取り組んでいます。
Designing-Dxについての詳しいお問合せは、コンタクトフォームまでお問い合わせください。
更新履歴
初稿:2021年5月4日、第2稿:2022年1月9日、第3稿:2022年4月3日、第4稿:2023年2月24日、第5稿:2025年1月10日