Singapore 2013 Vol.5 ピナクル@ダクストン

シンガポールでは、ホームオーナーシップ制度という「国民に自分の家を持たせる」事を国策として進めていますが、国民の82%が住宅開発局(HDB)の供給するアパートメントに居住しています。そしてその結果、国民の93%が自分の持ち家を持つまでに至っています。 この中心的な役割を担っているのがHDBの手がけるアパート郡で、この最新事例の一つがピナクル@ダクストン(Pinnacle@Duxton)です。マスタープランと基本設計は国際コンペで選出されたシンガポールの若手建築設計事務所 ARC-Studio Architecture

ピナクル@ダクストンは、チャイナタウンのほど近くのアクセス抜群のエリアにあって、マリーナベイからも車で5分程度。50階建てのタワーが26階と50階のデッキで繋がっているユニークな構造です。26階のスカイブリッジと屋上のスカイガーデンは住民は自由に出入りでき、外来者は一日200名限定で入場できるようになっています。これだけの高さを誇る公共住宅はシンガポールでもまだ少ないようですが、高密度の住環境をいかに快適に住う為に沢山のアイデアがちりばめられていて、シンガポールのお家芸でもある屋上庭園(スカイガーデン)はもちろん、多棟展開に拠って景観をリズミカルにし、自然換気と自然光の効率を高める事で高湿の環境下でも快適に過ごせるように配慮されています。26階のスカイブリッジにはジョギングトラックまで敷設されている充実ぶりです。笑

近年のHDBの手がけるアパートメントは、多様を極めていて幾つものブロックプラン(間取り)を丁寧に検討し、そのブロックプランの組み合わせを建築設計と環境設計にフィードバックさせています。元々が移民の国で、コラボレーションに長けたシンガポールの人々ならではの発想です。このピナクル@ダクストンは最新事例のHDBですが、造りは至って質素で華美な高級感とかは皆無。政府が主導しているプロジェクトですから、主観は「多民族で移民」の人々が「快適に暮らせる」事の一本に集約されています。多様な価値感を受け入れつつ、自分の家を持つ事で好ましい職業倫理が形成され、建物や自分たちの住む界隈を大切に思う気持ちが芽生えるように配慮されているわけです。

倫理観の醸成を第一に置き、法体系とフィナンシャル制度を確立し、結婚すれば賃貸よりも簡単に自分の持ち家が持てる仕組み。そしてそのアパートは世界中の知見を集めつつ、HDBの高密度住宅のノウハウを集約して設計する訳ですから、建築的にも魅力のある景観が生み出されます。高密度な集合住宅では「周辺のコミュニティの醸成」も大切ですが、その前に「個の倫理観の醸成」の方が多民族国家では重要なのでしょうね。

文:平澤太、撮影:平澤太・佐久間理恵

Singapore 2013 Reported by Futoshi Hirasawa
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