Adobe Fireflyで生成したデザインスタジオのイメージ in NOTO
昨年、創業設立と法人設立の周年の節目を終え、次の5年、10年先に向けた新たな年度を迎えることができました。昨年年初に掲げた「環境領域におけるコミュニケーションデザインをベースとした空間ブランディング」の深度を追求しながら、空間ブランディングを通じて、持続性の伴う豊かな環境創造に貢献してまいります。
Designcafeでは、ポートフォリオを拡充させていくための働き方、Designing-Dxやワークフローも含めてさまざまな取り組みを加速させています。この流れの一環で2023年に北陸・金沢に自社物件によるデザイン拠点” HiDEOUTLab ” (ハイドアウトラボ)をオープンし、Designcafeが手がける空間ブランディングに不可欠になる生成AIやトポロジー解析、ジェネレーティブデザインの利活用を前提とした検証作業を進めてきましたが、去年後半からは、オファーを受けたプロジェクトへの実装も開始しました。環境デザインのフレームワークを革新するデジタルトランスフォーメーション = Designing-Dx をアップデートさせながら、マインドとデザインの可能性を追求して行く所存です。
昨年の元旦に発生した能登半島地震では、金沢のHiDEOUTLabも被災しましたが、幸い怪我人はなく、建物・機材等の損傷も軽微で仕事始めまでに復旧することができました。同時に地方での罹災時の復旧の難しさ、復興への意思統一の大変さを仕事を通じて間近に感じてきました。私たちができることは微力かもしれませんが、引き続き心を寄せていきたいと考えています。
Designing Dx3.0
テーマは「自律性、領域拡張、省力化」
Designing Dx = 環境デザインにおけるデザインコミュニケーションの円滑化とデザイナーのクリエイティブワークに集中できる仕組みづくり
Designcafe™️では、デザイナーがより高い創造性を発揮し、労働生産性を向上させるための環境として、次世代デザインワークフロー”Designing Dx”(デザインワークのデジタルトランスフォーメーション)を提唱・実践しています。2020年にフレームを策定、2022年から実践的に導入を開始し、プロモーション空間のデザイン(主に展示会)や店舗デザイン、ショールームのデザインに順次導入しています。 当初は、デザインワークにおけるデジタイゼーションとフィジカルの接点を見直し、断片的なワークフローをより横断的に、そして効率的なデザインワークを推進するために構築しました。 Designing Dxは上記の5つのデザイン・テクノロジー(DM =ダイレクトモデリング、RR = リアルタイムレンダリング、BIM= ビルディングインフォメーションモデリング、3DS= 3Dスキャニング、3DP= 3Dプリンティング)を状況に応じて使うことで、クライアントに対しての提案の迅速化やラピッドプロトタイピングを容易に行えるため、デザインプロジェクトにおけるデザインマネージメント(デザインの意思疎通)がスムーズにできるメリットがあります。> Designing Dx / Digital Twin
Designing Dxの提唱・実装を経て3年、次のフェーズ「生成AI」の活用へ
スタートは、フィジカルデザインをデジタイゼーションで省力化させる事で、よりクリエイティブワークに集中できる仕組みづくり(=デザインワークにおける労働生産性の向上)という観点で取り組んできましたが、3年目の昨年からは生成AIの活用を加え、より多角的な視点でのデザインの取り組みを行っています。一つ目は、検討段階からパラメトリックなスタディ(Generative Study=ジェネレーティブ・スタディ*1)を行い、その検討内容からフィジカルデザインに取り掛かる手法です。
*1: Generative Study(ジェネレーティブ・スタディ):汎用的なビジュアライジングAIを活用したリサーチ方法。プロジェクトのアウトラインを伏せながら、特定のスクリプトをプロンプトし、目的とするデザイン表現の一般性や可能性をリサーチすること。
空間デザインでは、クライアントとの初期検討の段階で、目的の空間に近い写真をピックアップし、共有するケース(コラージュもしくはムードボードなど)がありますが、これを生成AIで行いつつ、その可能性や表現性を事前にいくつも検討することで、よりユニークなデザインをフィジカルに取り組むことができます。汎用AIで生成されたデザインを「既に学習されているデザイン = 汎用性のあるデザイン」と捉えることもでき、同じ表現やディティールを回避することで、独創性(ユニーク)のあるデザインを生み出し易くします。
二つ目の取り組みとして、特定の定義(プロンプト)をChatGPT4.oを使ってPythonスクリプトとして生成し、3Dモデラーにコマンドラインを実行するような使い方(Generative Design = ジェネレーティブデザイン*2)も試験的に行っています。これは、デザインの領域拡張とも言うべき手法で、形状だけに限って言えば3Dモデラーや3D CADに実装されているトポロジー最適化*3 よりも取り組み易く、プログラム言語がわからなくても定義づけさえできればChatGPTがスクリプト生成してくれる為、スクリプトをコマンドラインにコピー&ペーストするだけでデザインのパターンを導き出すことができます。トポロジーについては最初のDesigning-Dxの立ち上げの際にも言及しましたが、生成AIを活用したデザイン検討は弊社に限らず、今後加速していくと思います。
*2: ジェネレーティブデザインとは、コンピューターと技術者が共同でデザインを行う技術で、AI(人工知能)が設計パラメーターに基づいて3Dモデルを生成する。未だ無いモノを作ることに向いており、複数案の回答が提示される。
*3: トポロジー最適化とは、設計で使える空間にどのように材料を配置すれば最適な構造となるのかを明らかにする解析。今あるモデルを最適化することに向いている。設計空間・荷重条件・拘束条件・制約条件を与え、所望の性能指標を最大化する材料の配置を計算を行う。設計空間モデルで想定される製品の使用環境やスペックに対して最適形状を見つけることができる。
3Dスキャニングによる空間測量&現場調査の省力化
Designing Dxの省力化の側面では、環境(空間)デザインにおける既存建築の3Dスキャニングの実装が進みました。これはiPhone/iPad Proに搭載されているLiDERやBLKカメラを使って空間を3D点群データで撮像し、3D&BIMデータに変換&流用することで、人力での測量から建築図面を起こす手間を省くことができます。この技術が役立つ場面は、大きく3つあります。
- 建築図面を紛失している物件
- 検査済証(=建築確認申請図)の無い物件(1998年の建築基準法改正以前の物件)
- 人力での実測が難しい複雑な小屋組を持つ古民家のような建物
特に2については建築概要書と平面図以外は皆無のようなケースの場合、用途変更を伴う施設計画(住宅用途→宿泊施設、倉庫用途→物販店舗のような特殊建築用途)では、まず現況図面を準備しないと用途変更そのものが申請できない事態になります。既存の建築ストックを建築当初の用途から他用途に転用し、有効活用する流れは加速しており、一定の条件を満たした用途変更の規制緩和も進んでいることから、築30年以上の建築物の有効活用の流れは加速する*4と思われます。用途変更を伴うケースでは事前検討が必要であり、建築図を紛失しているケースや検査済証を取得していない物件でも、比較的短時間で3Dボリュームで実測でき、従来の人手による測量+建築図面化よりも低コストで図面化できる空間3Dスキャニングは、省力化の側面と相まって重要なテクノロジーになっていきます。そして、クライアント側のメリットは、プロトタイピングの迅速化による計画の検討が容易になることです。
*4: 建築基準法の改正により、2019年6月25日以降、200m2以下の特殊建築物の用途変更には建築確認の手続きが不要に。これは、空き家の活用や高齢化社会への対応を目的としています。
同時に3Dスキャニングによる建築&空間ボリュームの測量は、BIMや3Dでの計画ができないと宝の持ち腐れになります。建築や空間デザインの現場ではBIMの導入が遅れており*5、この技術そのものを受け入れられる仕組みがないと計画もできない為、Designcafeでは競争優位性の観点でも実装の中でノウハウの蓄積に努めています。
*5: 日本の建築業界のBIM導入率は30%程度。2020年統計。