空間におけるブランディング(空間ブランディング)の重要性は、カテゴリーや属性を問わず、コロナ禍を経験した現在、企業活動のあらゆる場面で重要になってきています。私たちは、20年にわたる環境領域におけるコミュニケーションデザインの経験と知見から、このテーマに向き合ってきました。そこで、私たちが考える空間ブランディングの必要とされるケースとブランディングの背景を解説していきます。
01.ブランディングとは
ブランディング(Branding)とは「自社ブランドに対して顧客のロイアルティ(Loyalty:愛着や信頼)、共感性を高めることで、自社の付加価値を創造し競合他社との差別化を実現する」事を目的としています。1980年代に隆盛を極めたCI(コーポレートアイデンティティ)も狭義のブランディングですが、現在のブランディングは商品やサービスのみならず企業経営にも必要とされており、主に自社製品の購買層や利用顧客をターゲットとしたアウターブランディング(一般的なブランディングはアウターブランディングを指すことが多い)と社内(社員やステークホルダー)向けに施策を行うインナーブランディングの二つに大別されます。
自社製品の購買層や利用顧客をターゲットとしたブランディングは、ユーザーが「ブランド&メーカー」への信頼を最大限化するために、CIやロゴといったシンボルから、もてなされる空間、提供される製品のデザインや品質まで多岐にわたり、決して見た目だけを整備するものではありません。「信頼を獲得し、共感を得て、ファンになり続けてもらえること」で、そのブランドのロイアルティを獲得することが最終的な目標になります。ターゲットの選定やポジショニングなどの重要性と同様、顧客の立場に立った誠実でわかりやすいコミュニケーションがブランドへの共感を醸成する上で重要です。
計画的なブランディングとその努力によってもたらされるメリットは下記6つに挙げられます。※2
- 競合からの差異化
ブランドネームやロゴ・意匠などで、他競合とは区別されて認識されるようになる。 - 選択意思決定の単純化・固定化
顧客の知識が整理されることで再び同じ物を選ぶようになる。 - ユーザーのロイヤル化
親しみや信頼が増大されることでブランド・ロイヤルティが形成される。 - 価格競争の回避
『顧客にとっての価値』が訴求され、提供品質を無視した価格競争の必要が無くなる。 - 価格プレミアムの獲得
同じ品質・スペックの商品について、競合よりも高い価格で販売が可能になる。 - プロモーションコストの削減
以上のことから販売促進の必要度を低下させることが可能になる。
Amazonの創始者、ジェフ・ベゾスは「ブランディングとは、あなたがミーティングを去った後で、人々があなたのことをどう語るかを意味する」と言っています。言い得て妙ですが、これは非常にわかりやすくブランドを語る上でのポイントを示唆しています。世界最大の老舗ブランドファーム”ランドーアソシエイツ“の創始者、ウォルター・ランドーはブランドについて「製品は工場で造られるが、ブランドは顧客の心の中に創られる」と話しています。つまりブランドとは、
- アイデンティティを具体的に表現したもの。
- あなた自身が説明するものではなく、他者があなたは”こうだ”と語れること。
- パーソナリティを定義する、一連の特性を持っている。
- 約束事であり、優れたアイデアであり、ユーザーの中にある期待である。
- 評判である。
と整理することができます。
02.コロナ禍を経て企業活動上、より重要になった空間ブランディングについて
ブランディングの中でも「リアルコミュニケーション」のタッチポイント(顧客接点)として重要な役割を担うのが空間(環境)ブランディングです。空間からアプローチすることで、身近なタッチポイントとして触れることができるため、CIやVIといった二次元では表現しきれない「身体性」を利用したタッチポイントの構築ができることが最大のメリットになります。ターゲット属性を空間と環境デザインで仕分けると下記のようになります。
02-1. 自社製品の購買層や利用顧客をターゲットとしたアウターブランディング
アウターブランディングは、製品や自社の世界観をチャネルを通じて反映させることで、ブランドとしての認識、品格、クオリティ、顧客に対しての姿勢を示すことができ、空間ブランディングの領域では商環境デザイン、店舗デザイン、ショールームデザイン、展示会ブースデザインが該当します。既にあるブランドでは「空間体験を通じて、ブランドの姿勢を伝えること」、新たに生み出すブランドの場合は、チャネルタッチポイント(顧客体験する場面)を設定し、その中での空間体験をどのように顧客に提供していくかがポイントになります。
02-2. 社内(社員やステークホルダー)向けに施策を行うインナーブランディング
インナーブランディングは主に自社の大切な価値観、理念といった企業活動する上で「最も大切なマインド = ブランド」を社内に浸透させ、ブランドの体現者として自律的な行動してもらうことを目的とします。自分たちの活動が「自信を持って伝達できる、自律的に判断したことが自社ブランドを体現できている」状態になることです。
空間ブランディングの領域では、オフィスデザインが取り組みとして多く目立ちます。また昨今では、ものづくりの現場でも取り組む事例が目立ち、ファクトリーデザインやワークショップデザインなども該当します。自分達が働く環境をより良くしていくことで、モチベーションを高めたり、ハイブリッドワークでオフィスやスタジオに常駐する時間が限られている中でも、テレワークでは得られない「社内や組織との繋がり」を得ることができ、自社への愛着を高めていくことができます。効率的な環境を求められることが多かった労働環境もモチベーションや自律的な行動を促す仕組みとして計画する事例も散見するようになりました。また、オフィスデザインではABW(Activity Based Working)といった働く場所そのものを分散させたり、好きな場所で働いても良いといった自由度を高めた取り組みも活発です。 参照:コロナ渦とABW( Activity Based Working )という概念
03.Designcafeの空間ブランディングの事例
03-1.HYOD®/ ヒョウドウプロダクツ
国内外のGPライダーのレザースーツの企画製造からスタートし、ライダー向けのアパレル、ライディングギア全般を手がけるHYOD(ヒョウドウプロダクツ)。自社開発、自社生産されたレザースーツ&ジャケットはその品質の高さから海外ユーザーのファンも多く、海外FCも展開。Designcafeは、浜松にある本社/旗艦店の新築移転計画からプロジェクトに参画し、建築デザインと店舗デザインを担当。並行して進めていた直営店であるHYOD仙台店のストアデザイン(ファサード及び店内)、海外店舗のストアデザインと売場デザインの監修、プロモーションの一環として出展しているモーターサイクルショーのブースデザインまで、HYODのカスタマージャーニー※の中でもリアルなタッチポイントとなる空間ブランディングを担当しています。 ※カスタマージャーニー:顧客が商品やサービスと出会い、購入・契約に至るまでの道筋
Designcafeがプロジェクトに参画する前から、タッチポイント全般のブランディングが施策されており、浜松にある本社/旗艦店の新築移転計画を機に空間ブランディングとしてSI※の方向性を再検証。ハンドメイド&マニファクチャーをコンセプトに出したカラースキームやマテリアルを選定し、VMDを策定、ショッピングの体験や店舗におけるこれまでの使い勝手から極端に逸脱しないように配慮しながら、刷新感を感じる空間デザインを展開しています。
※SI = Store Identity ストアアイデンティティ。
メディアプロモーション、B2C向けプロモーションの一環として出展している東京モーターサイクルショーについても、カスタマージャーニーを重視しながら最も訴求したいアイテムからプライオリティをつけ、直接触れることができる体感型の展示会ブースデザインを計画しています。オムニチャネルストアを意識した展開もあれば、ブランド訴求が中心の展開ケースもあり、その時のブランド戦略に寄り添ったプロモーション空間としての展示会ブースデザインを心がけています。
事例:HYOD Headquarters / HYOD-PLUS (ヒョウドウプロダクツ本社屋、HYOD-PLUS)
事例:HYOD-PLUS 2F Communication lounge(HYOD-PLUS コミュニケーションラウンジ)
事例:HYOD Sendai(ヒョウドウプロダクツ仙台ストア)
事例:Tokyo Motorcycle Show 2019 HYOD(東京モーターサイクルショー2019 HYODブース)
03-2. ハートランド・データ
組込みソフトウェアの受託開発から、動的テストツール、暮らしを便利にするIoTモジュールを開発提供するハートランド・データ社。Designcafeは、ハートランド・データ社のブランディングの一環としてIT系展示会でのプロモーションブース(展示会ブースデザイン)、インフォグラフィックやタッチポイント開発、展示会で配布する各種ハンドアウトツール(製品パンフレット、ステッカー)、プロダクトのロゴマーク開発(VI)といった空間ブランディング、VI開発を2018年から担当しています。
ハートランド・データ社の空間ブランディングは、展示会ブースデザインを従前から引き継ぐ形で取り組みがスタートし、同社の主力商品である組込みソフトの動的テストツール(DT+)が前モデルからグレードアップするタイミングでVI、ハンドアウトツール、ブースデザインとプロダクトカラーを刷新し、それまで企業として出展していたスタイルからプロダクト(製品)の訴求するスタイルにチェンジ。既存ユーザーの関心が高いグレードアップのタイミングを狙うことで、新規ユーザの獲得と既存ユーザーのロイヤリティを高め、プロモーション効果をあげています。
事例:IT-week 2021 Nagoya “DT+ ” by Heartland.Data
事例:IT-week 2022 SP “Heartland.Data”
事例:IT-week 2023 SP “Heartland.Data”
展示会ブースデザインとしてはマイナーチェンジしながら、訴求するプロダクトのキャラクターに寄り添い計画しており、タッチアンドトライを中心とした新しい展示体験ができるように心がけています。
また、インナーブランディングの一環として、本社隣接地に新設した「ソフトウェアデザインセンター」一階に計画された多目的スペースをABWを取り入れた「ワークラウンジ」としての刷新を提案し、インテリアデザイン(FFEコーディネート)を手掛けました。400㎡の空間を二つに分け、一つは常設のワークラウンジ(少人数MTGエリア、高集中エリア、リラックスエリア)とし、残りの空間を通常はグループMTGや食事ができるダイニングエリア兼セミナーやイベントで活用できるイベントスペースとして計画しました。 社内でも大変好評とのことで、自社内のみならず社会活動の一環として地域の子供達を招いたワークショップイベントのスペースとしても活用しており、身近な会社に触れる空間として機能しています。
事例:Heartland.Data -Headquarters Work Lounge
03.Designcafeの空間ブランディングの特徴
空間ブランディングというリアルなカスタマータッチポイントを計画する上で、Designcafeが得意とするのは「空間のリブランディング(再構築)」です。企業が持つ既存ブランドを再構築することで、その魅力や訴求力を復活させることを意味します。空間は人の感覚知の中でも「視覚、聴覚、嗅覚、触覚」を刺激することが可能であり、視覚だけでは伝わらない繊細な刺激を情報として伝えることができます。デジタルツインやMRなど新しい体感の形とも親和性がよく、もっとも重要なブランド接点は空間ブランディングだと考えているからです。コミュニケーションのあり方として空間デザインから緻密に計画することで、ブランドは蘇ることができます。
参照:Designcafeの考える展示会ブースデザインについて(ブランディング編)
参照:Designcafeの考える店舗、展示会を中心としたオムニチャネル戦略の空間デザイン
Designcafeは、既存のブランドの分析から空間ブランディングの戦略立案を行なっていきます。また新規ブランドの立ち上げに対して、適切な空間デザインの提案も行います。
- ブランドがどのように受け止められているかに関する分析
- ブランドの定義と必要となる戦略的ポジション
- ユーザーの期待に叶う製品とサービスを啓蒙するためのタッチポイントのデザイン
- ターゲットユーザーの理解
- ブランドのユニークさやストーリー
- コミュニケーションの取り方
- フィードバックと評価
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※1:ブランディング – Wikipedia
※2:デジタル・ブランディング – 世界のトップブランドがいま実践していること: パブロ・ルビオ・オルダス (著)