空間デザイン事務所のクリエイティブツールの評価と導入

今回のテーマ「空間デザイン事務所のクリエイティブツールの導入と評価」ですが、端的に言うと導入しているCADやレンダリングソフト、ドローツールと言った「デザインや設計に使うツール」の評価と改善、改善の上で必要となるツールの導入検討の考察です。

また3DプリンターやVRなど、汎用化しつつある新しいテクノロジーにも目を向け、必要となれば計画的に導入を検討し、社内メンバーへの啓蒙と教育、導入費用の捻出まで検討を行い、計画的な指標のもとに社内のレベルアップ(提案の冗長化や効率化、現場へのフィードバックの効率化、ライブラリーの充実など)を図るものです。特に中小企業の場合、最も裁量を持つ所長たるトップが多忙を極めている事が多く、中々評価に加われない、もしくはテクノロジーに関心が低く、今あるツールで何となく満足しているなど、ネガティブな要素が多いようです。

クリエイティブツールの見直しの経緯

Designcafeの場合、基幹となるCADと3DCGのモデリング&レンダリングを分けており、3D CADはVectorworks(Architect / Fundermentals. 以下VW)のハイ・ローミックスで、3D CGはShade3Dを使用し、この併用スタイルで10年以上使ってきました。Vectorworksがレンダリングエンジンを統合する前の時代でしたが、PLANや2D作図はVW、デザインはShadeで3Dを描き起こすような、今からすると非常に変則的(ややこしい)な使い方をしています。

Shade3D

この使い方は、現状メンバー全員が取得しているので問題ないのですが、やはり効率の観点では望ましくなく、新卒採用でも入社してからShade3Dを習得する労力(3D CADの普及で大学、専門学校ではほぼ使われていない。インテリア系の学科はVW、建築学科はRevitやARCHICADを履修するケースが殆ど)、実質的にShade3D ⇄ VW間の3Dインポートが効かないこと、データーが分かれてしまうなどデメリットを強く感じるようになりました。

VWの3Dを全く使わないわけではないのですが、BIMなどの高機能化に伴い動作(特に3Dレンダリング)が非常に重く、同時にMac本体の冗長化の限界を感じるようになり、ある程度自由に描けるShade3Dを好んでしまったのが本音です。PCであれば、ある程度のシステムを自由に組むことができますが、MacはBTOでカスタムしても限界があります。そこでVWの3D CADの特性は生かしながら、レンダリングやビジュアライゼーションを分けられないか?を模索するようになりました。きっかけは、Appleのアップルシリコンへの移行発表でした。

ビジュアライゼーションと作図効率:Vectorworks

Designcafeでもビジュアライゼーションはとても重視しており、提案力からの実施設計能力は、空間デザインの業界でも非常に重要な要素になります。同時に、3Dと2Dの作図を分けてしまうと、各々に反映する際に手動で作業することになり、非効率です。そこで、デザインワークフローとしてはShade3Dはスタディ(検討)ツールに留め、今後はVWによる2D&3D検討(モデリング)→レンダリングソフトによる&ビジュアライゼーションと分け、VWの3Dモデリングと親和性があることを条件とし検討しています。

VWにこだわるのは、日本の空間デザイン業ではほぼデファクトスタンダードになっている事とVWのArchitectで使える各種ビューポートの使い勝手が良く、これを活用すれば展開図や断面図といった作図が効率的に行えるためです。また、標準のディティールを3Dシンボル登録することで、3Dも共有化することが可能になります。空間設計でも、適宜3Dでの確認は必須であり、ディティールにこだわるほど3D CADでのモデリング&作図の一元化は必須です。

ビジュアライゼーションで検討しているソフトは2つあり、Keyshotと49でも導入したTwinmortionです。まだ評価中なのでどちらでいくかは決めていませんが、この二つのうちどちらかになると思います。

 

レンダリングソフトの選定基準:KeyShot / Twinmortion

この二つのソフト、KeyshotTwinmortionが共通していることは、モデリングを行わない、レンダリングとビジュアライゼーションに特化しているということです。モデリングは別のソフトで作成(今回の場合はVW)したものをパラソリッドやCINEMA4Dなどで取り込み、面毎にレンダリングしていくイメージになります。

Keyshotは、上のビデオを見れば一目瞭然ですが、リアルタイムでイメージの確認ができること、テクスチャーのマッピングが簡単で照明設定もデフォルト設定が容易(というよりもプリセットされている)な為、デフォルトの設定(Apple標準仕様)でもフォトジェニックに仕上げることができます。もう一つ評価しているのは高機能なグラフィックボードを搭載していなくてもプロセッサーのバランスでパフォーマンスが決まるということ。デフォルト仕様のMacでもパフォーマンスが期待できます。直感的なインターフェースなだけに軽快なことは非常に重要です。

KeyShotは特別なハードウェア、グラフィックカードを必要としません。KeyShotはPC上にあるコア、スレッドの全てを有効に使いレンダリングを行います。PCの処理速度を速くするとそれに比例してKeyShotのレンダリングスピードも速くなります。コア数、スレッド数と比例してパフォーマンスが向上します。コア数を二倍にすると計算速度も二倍、つまり半分の時間でレンダリングが終了します。keyshot.jpより抜粋

 

Twinmortionは、ゲームソフトを手掛けている会社が開発した「没入型建築ビジュアライゼーション」なる概念で作られたリアルタイムレンダリングソフトで、高精度なレンダリングと動きのあるパノラマ、標準または360°のVR ビデオに仕立てることができます。基本的には建築での利用が前提で多くのプリセットシンボルも建築向けに作られていますが、空間で使用することも可能です。

このソフトをDesigncafeで導入するメリットは、建築が関わってきたり路面店舗などのデザインでの活用、将来的には49との協働によるプロジェクトの際に共有できることなどが挙げられます。デメリットは、非常にハイスペックな仕様のMac(特にメモリーとGPU)が必要な為、全員で使うようにできるとなると、一部のMacを交換しないといけなくなることです。

スタディーモデリング の模索:Shapr3D

上記の流れで整理すると下記のようなデザインフローになります。

1 : スタディーモデリング    Shade 3D
2 : 3Dモデリング&3D作図  Vectorworks Architect
3 : ビジュアライゼーション Keyshot or Twinmortion
4: オーサリング Photoshop & Illustrator

原則は2と3を中心にしていく流れです。Mac本体の更新(Designcafeの場合3〜4年で更新)もこのセットアップと動作環境を前提にした内容になります。1に関しては必須ではなく今後は使える人のみで、新卒者には習得を求めていかない予定ですが、これはShade3Dが今後安定した供給がなされるか?(これまで数回開発販売会社が変わった経緯がある)こと、またエクスポートの問題(後出)から、別のスタディーモデリングツールも模索しています。

そんな状況の中で今年から試験的に使用しているのはShapr3D(シェイパー3D)というハンガリーで開発されたiPad-Pro専用の3D CADです。アップルペンシルでのユーザビリティーで直感的に使えることと、OpenGLライクな見た目ながら、3Dで形状を押し出したりラウンドさせたりテーパーさせたり自由に形状を作り込むことができます。このユーザビリティーは衝撃的でApple Award 2020を受賞したことも肯けます。実際に1ヶ月程度の使い込みでほぼ習得できます。

モデリングカーネルはVectorworks(CINEMA4d)と同じParasolidなので、Parasolid形式(.x_t または.x_b)で100%形状の互換性を保ったまま、Vectorworks Architectに取り込み、作図の原型として3Dデーターを活用することができます。ただし、VWの断面ビューポートなどの機能をフルに活用するとなると手入れが必要です。

Shade3Dを使っていて一番困るのは3D形状の取り込みをVectorworksで行った時に100%の取り込みができないことでした。Parasolidに対応していないShade3Dを空間デザインで活用するにはスタンドアロンとして割り切る必要があり、現在の3D CADとの親和性を考えるとこれは致命的です。Shade3Dの開発思想を考えるとやむを得ない部分もあるのですが、世界的な3D CADの流れは完全にParasolidの流れになっていて、プロダクトデザインなども含めて3Dの標準カーネルになっています。なのでネイティブファイルを保存する他にParasolidで保管すれば、Vectorworksや49が導入しているARCHICADへの受け渡しも可能なります。そしてもう一つ重要なのは、Shapr3Dは、Vectorworksだけでなく、既出のKeyshotやTwinmortionへのエクスポートも可能なこと。完全な互換性が確保できるということです。

導入コストとのバランス

今後の基幹システムとしては
1 : スタディーモデリング    Shapr3D(Shade 3Dも併用)
2 : 3Dモデリング&3D作図  Vectorworks Architect
3 : ビジュアライゼーション Keyshot or Twinmortion
4: オーサリング Photoshop & Illustrator

で検討しているわけですが、導入コスト&維持コストも並行して勘定する必要があります。

1 : スタディーモデリング
●Shapr3D Pro:初期導入&年間使用料 ¥25,800
 +iPad ProとApple Pencilが別途必要

●Shade3D Pro:初期導入 ¥98,000(年間使用料 ¥39,200)※参考

2 : 3Dモデリング&3D作図 
 ●Vectorworks Architect 初期導入 ¥ 416,000(VSS使用料 ¥87,000)

3 : ビジュアライゼーション 
●Keyshot Pro Floating:初期導入 ¥360,000(初期費用のみ)

●Twinmortion:初期導入 ¥28,000(初期費用。キャンペーン価格)

4: オーサリング 
●Photoshop CC+Lightroom CC+Illustrator CC セットプラン

 ¥49,920(サブスクリプション:年間費用)

Adobe系のサブスクリプションと比べると非常に高価で悩ましい感じですが、それだけに徒労に終わらないように見極めが必要です。また、Mac本体のレンダリング能力の向上(既存の機種であればeGPUの導入の検討)や、特に3 : ビジュアライゼーションのKeyshot Pro Floating(同一アカウントで複数台のMacにインストール可能。同時使用は不可)とTwinmortion(キャンペーン中)の価格差やKeyshotの廉価版(Keyshot HD ¥120,000)とKeyshot Pro Floatingの機能とコストバランスの評価などがあります。

機能とコストの見極を行ってからの導入となりますが、効率化が認められ、一定の条件を満たせばIT補助金などの助成金も活用できます。(認定されているソフトに限るので注意が必要)

最後に

現在評価中なので、まだ導入後のレビューができませんが、成果物としてのクオリティの向上とそれに対する労力の軽減とコストバランス。これを判断するとなると、スタッフメンバーだけでは困難で経営者側も積極的に関与していくことが肝心です。特にVRや3Dプリンターが普通に導入できる環境が揃っている今は、ツール全体をもう一度見直すいいタイミングだと考えています。最近にわかに話題になっている、DX=デジタルトランスフォーメーションを我々のようなデザイン業に当てはめると、それはクリエイティブツールの洗練化に繋がっていくような気がしてならないです。

僕の場合、自分だけで悩まないように、目的とゴールを見据えた上で積極的に周りも巻き込んで考えるようにしています。メンバーにとっても自分ごとですしね。建築や空間デザインは「枯れた技術の応用」ですけれど、優れたプレゼンテーションとアウトプット、実施能力はいつの時代も必要な能力です。これを忘れずに、新しいテクノロジーを携えて進んでいきたいと考えています。