ヤオコー川越美術館と小江戸の街・川越に行ってきました。都心から車・電車で1時間。川越は町を挙げて江戸時代に創られた街並を丁寧に保存している街ですが、小江戸の街並は過去数回訪れた事があったので、今回は2011年に竣工したヤオコー川越美術館を中心に、氷川神社などを織り交ぜて撮影を楽しみながら散策してきました。
ヤオコー川越美術館は、主に埼玉西部を中心に北関東一円に店舗展開しているSM、ヤオコーが創業120周年の記念事業として計画された美術館で、リアリズムを追求した抽象画家・三栖右嗣のコレクションを展示・一般開放しています。 元々は同社創業者一族がコレクションしていた作品のようですが、地域性の高いスーパーマーケットを生業にしている同社が地元に貢献出来る記念事業として長年温めていた計画とのこと。また、三栖が埼玉県比企郡ときがわ町にアトリエを構えていた事とヤオコーが小川町で創業していた縁も大きかったようです。
建築デザインとしては、見ての通りとてもミニマムに纏められていて、小規模と言う事もありヒューマンスケールを逸脱しないサイズ感の建築です。竣工して3年経過している事もあり、周辺に計画された植樹・緑化も定着していて、建物周辺の水盤の効果もあり穏やかなたたずまいがあります。
シンボルツリーのサークルは、ベンチ仕立てになっていて建物とお揃いのコンクリート製です。植え込みに見えるグレアカットフード付きアウトドアスポットライトの数から、夜は象徴的に浮かび上がらすことで、一つのサインとしての象徴性をこの樹に持たせている意図が伺えます(ちなみにこの美術館、道側に大きなサインが一つもありません)。
内部に関しては、4つの大きな空間に仕切られていて、展示室は「陰と陽」の関係性で対比した空間になっています。展示されている三栖の作品からインスパイアーされているようですが、作品の世界に入り込みやすくする為に無駄を削ぎ落とした設えになっていて、必要最低限の光(展示室1)・開放感を醸成させる光(展示室2)の対比はとても印象的です。エアコンの送風口もスリットライン状に幅木に添わせている徹底ぶりで、マニア心をくすぐります。細かい話ですが(笑)。。
今回は「伊東豊雄さんが設計した美術館」が「川越の蔵の街」のちょっと行った所にあるらしい・・位の前知識で行ってきたのですが、本川越駅からの導線・・蔵の街→氷川神社→新河岸川の畔というロケーションの設定は絶妙で(川越に詳しい人なら解ると思いますが)この散策路で廻る事でこの美術館の魅力を引き出しています。後で気がついた事ですが、新河岸側の両岸は桜並木が植えられていて、この美術館に多く収蔵されている「桜をモチーフにした絵画」と準えているんですね。桜の季節に散策したらきっと三栖作品の魅力が倍増するんでしょうね。
三栖作品についても、この美術館のリーフレットを読んで知った程度の知識でしたが、そのリアリズムの作風は、彼独特のデフォルメがあり、恣意的で、若い時よりも晩年の方が顕著に現れます。絵画は実際に間近で見ないとその迫力が伝わって来ないですし、写実的な作風なので子供でも楽しめます。建築も然り。そういう意味でもこの美術館は一般の人が接しやすい美術館なのでしょうね。また余談ですが、ラウンジで頂けるおはぎセットは絶品でした。美術館の方に伺った所、ヤオコーさんでも同じものが買えるそうです。笑
ヤオコー川越美術館(三栖右嗣記念館)
施主:ヤオコー
設計:伊東豊雄/伊東豊雄建築設計事務所
所在地:埼玉県川越市氷川町109-1
用途:美術館
構造:壁式鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造
規模:地上1階
竣工:2011年12月
公式サイト http://www.yaoko-net.com/museum/
ヤオコー川越美術館の後は、裏手にある縁結びの神さまで有名な「川越・氷川神社」→昔ながらのお菓子を売るお店が軒を連ねる「菓子屋横町」→小江戸川越を象徴する「蔵の街」→蔵の街の中にある川越のシンボル「時の鐘」→旧田中家住宅を改装した「カフェ・エレバート」→大正期の看板建築が並ぶ「大正ロマン通り」といった感じで散策してきました。 小江戸という名称でそれなりの知名度もある川越なので、有名どころの説明は省略しますが、個人的に気に入っているのは「カフェ・エレバート」。外観は典型的な看板建築の洋館で奥に和創菜と四季のすし「風凛(ふうりん)」が併設されている、一見不思議な店ですが、店の造りもクオリティーも申し分無く、川越自慢の地ビール「COEDO」がドラフトで頂けます。通常5種類の瓶ビールで提供されるCOEDOですが、川越ではブルワリーが地元にある為、ドラフト(1種類)も提供されているんですね。すばらしい。埼玉には自慢出来るものが少ない、出身県民としては寂しい所なのですが、近年はお酒・・特に秩父のウイスキー「Ichiro’s Malt」や川越の「COEDO」のお陰でお酒好きが注目する場所に変わってきました。世界の名だたる賞を受賞してきた、埼玉が誇るお酒ツートップです。このお酒を〆に建築を探訪するのが正しい川越散策だと思います。笑